2022/12/06

第9回コラム 植毛のあと薄毛が進んだら?

先日以下のような質問を受けました。

『植毛後数年後の既存毛の脱毛による離れ小島のようになることについてと、この抜本的な対策について取り上げてください。M型、O型、全スカタイプで対応方法が異なるかと思います。
実際、離れ小島になってしまって植毛をしたことを後悔されている方が非常に多く思います。ネットで調べてもデメリットとして必ず挙がってきます。数年は髪の毛が生き生きしていいかもしれませんが、この点、どのようにお考えでしょうか。
寧ろ、植毛した毛を抜くことで既存毛との穴を埋めるなどの対応は出来ないのでしょうか。
先生は植毛されたそうですが、何年ほど経過しているでしょうか。既存毛と植毛部分で離れ小島が出来ているでしょうか。出来た場合はどのように対応される予定でしょうか。』

今回、移植毛は一生はえつづけるのに対して既存毛はしだいに抜けて薄くなった場合どうするのか?について論じてみます。
元来男性型脱毛症(AGA)は進行性であり、だからこそ1度植毛をうけても多くの場合長い年月のあいだに既存のヘアが薄くなるということを想定しなければなりません。その意味でAGAに関して私達は『頭髪の主治医』という立場で目先だけにとらわれない長い視点を持って患者様とおつきあいしないといけないと思います。
そのネットの話題の多くは植毛が二重まぶたや鼻を高くするといった1度の施術ですんでしまう美容整形手術のイメージで論じられているようです。
植毛と競合するクリニックorヘア関連業者や実際には手術をうけていない方々からの言いがかりに近い投稿も含まれるのかもしれません。

既存毛の脱毛によって移植毛が離れ小島のようになって植毛したことを後悔するのか?

M型の移植毛だけのこってしまったケースを過去に拝見したことがありますが皆様が考えているような頻度ではありません。極端なケースは20年間の内に数例経験しておりますがそのような方でも植毛を再度行って不自然さを解決できたと思います。

強調したいことはほとんどの方々は決して植毛を受けたことを後悔してはいなかったということです。植毛によって得られた喜びの大きさは御本人にしかわからないほど大きく、植毛で満足なさった方は将来にそのような状態になっても移植毛を抜くなどという後ろ向きな解決策を希望することはまれだと思います。またそうすることは賢明ではありません。

M型の場合の対応策は?

移植毛のうしろ側に植毛を追加して生え際のボリュームアップをはかることで対応します。ツムジまで薄毛が進んだ場合にはドナーの状態が許せばメガセッションでそこにも植えつけることは可能でしょうが、それをしない場合でも少なくとも生え際からツムジまでの薄毛の範囲のうち前半分だけを植毛で濃くすればツムジだけが薄いクラスⅢ vertex になります。実際そのような状態の薄毛の方は大勢いらっしゃいます。

ツムジの薄毛の対応策は?

移植毛の周辺がドーナツ状に薄くなり明らかに不自然ならそこに植毛を行いますが、ふつうその状態になるまで放っておかれる方はまれでしょう。プロペシアが登場した10年以上前ならともかく現在ではそうなる前に薬物治療で濃くできるor現状を維持することを期待することだろうと思います。薬物の効果は確実ではありませんが、いろいろのデータからいっても抜毛を減らして現状維持できる確率は高いと思います。

びまん性脱毛の場合は?

これはダイエット、全身の病気、ある種の薬物の服用などが原因で起こります。高齢になってヘア全体が細くなり少しまばらになる老人性脱毛症もこれに入るかもしれません。もともと植毛はドナーのヘアがずっとはえ続けるというドナードミナンスの理論に基づく施術ですからヘア全体が薄くなるこのような状態は適応ではありません。当然薬物治療を行なうことになります。植毛したあとでこれらが起こった場合移植毛も既存毛も両方薄くなるので離れ小島になるということ自体ありえません。

どこまで薄毛はすすむのか?

AGAの進行のていどは家族や親戚の方々のパターンが大いに参考になると思います。ただ将来どの段階まで薄毛が進行するのか正確に予想するのは不可能です。 各人のAGAの最終段階かが予想できない以上、いつ既存毛の薄毛を心配せずに植毛を受けられるのかはわからないということになります。

知っておいていただきたいのは薄毛で悩んでいらっしゃる方々のうちAGAの進行の分類(当院HP参照https://www.yokobikai.or.jp/aga.html)で一番すすんだクラスⅥ、Ⅶに関して言えば、Norwood博士は50~59才の方ではクラスⅥは7%、クラスⅦは3%、80才台の方でクラスⅥは13%、クラスⅦは17%と報告しています。 つまりサザエさんのお父さんタイプの方は60才台まで薄毛全体の1割未満にすぎないというわけです。
ちなみに私自身は10年前に植毛を受けたのですが幸いその後現在までヘアの悩みはありません。久しぶりに会う海外の植毛医は『君の薄毛はツムジまで進まないタイプかもしれない。御両親からもらったDNAに感謝だね。』と言ってくれます。

最近の植毛術では一度に5000~7000本(2500~3500株)、数度の施術で合計12000~20000本(6000~10000株)の移植毛が 植えつけられ、仮にほとんどの方が満足するとされる40株/c㎡以上の密度を達成するとして、最低150c㎡の薄毛の面積をカバーできますが、一方すべての 薄毛の方々がAGAの最終段階とされるNorwood分類のクラスⅥとかⅦ(Ⅶでは薄毛の面積は200c㎡以上になりますが)になるわけでもありません。ほとんどの方は既存毛の脱毛という状態は追加の植毛で解決できるということです。ただ植毛で薄毛を濃くするということはできてもAGAの進行をとめることはできず、それが可能なのは薬物治療しかありません。

結論を言えば、既存毛の薄毛に対しては早い段階で薬物による現状維持をはかり、薬物治療が奏効しないor行えない場合には植毛を追加するというのが解決策だと言えます。ヘアライン周辺は植毛が第一選択なのに対して、ツムジはヘアラインより薬物がよく奏効し、またその面積が広いため薬物治療の比重がより大きいと言えます。