2022/12/06

第2回コラム ショック現象

ショックロスとは?

ショックロスとは『植毛によってもたらされた、既存のヘアor以前に植えつけた移植毛の一時的or永久的な脱毛』と定義されます。
ショックロスという表現は永久的喪失のイメージが強いのでショック( shock )といういい方が適切だといわれていますがここではインターネット上でよりポピュラーなショックロスという表現にしておきます。
これは植えつけた範囲だけにおこり(植えつけ範囲以外の脱毛はこれには入りません)、また手術後1~2ヶ月の間におこる現象です(それ以降の場合は男性型脱毛症の進行のためだと思われます)。
インターネット上ではこの言葉を盛んに眼にしますが実はこれをくわしく記述した資料もほとんどなく、たとえばこれが手術後何%の方々におこるのか?という頻度も正確にデータがないのです。
既存のヘアがのこっていれば多かれ少なかれおこると思われますが、その程度もまた一時的か永久的かの割合もケースによって違うので数字が出ないといってもいいと思います。

ショックロスの原因

(1) 機械的な損傷、つまり植えつける際ニードルやブレードによって毛根切断がおこるなど直接のヘアのダメージによるもの
(2) 局所麻酔剤や血管収縮剤(これは植毛の時に必ずつかわれます)などの薬剤による化学的作用によるもの
(3) 高密度植毛(デンスパッキング)によるもの
が考えられ、(1)がもっともその可能性が高いのですが、(2)についてはもしそうだとしてもあるていど仕方がない、つまりそれらの薬剤なしで植毛が不可能ということがいえます。
(3)はデンスパッキングのため株が血行を介してヘアに栄養がいきわたりにくくなるということですが、この点については主張の分かれる所です。

ショックロスは防げるのか?

既存のヘアが細くなってしまったと思われる範囲に植毛をする場合このリスクは0にできません。
ただリスクが大きい、小さいを予測することは大切かもしれません。
以下の方々はショックロスのリスクがそうでない方より高いといわれています。

・女性(女性のショックロスのリスクは男性より大きいことは知られています。)
・ミノキシジルを使っている方
・急に抜け毛がふえていると感じている方(特に若い方)

したがって手術を受ける方ができる予防策とは
・男性の方はなるべくプロペシアを服用すること(プロペシアはショックロスのリスクを下げるといわれています)
・ミノキを既に使っている場合術後なるべく早くはじめること(1~2週間後)

ですが植毛医が注意することは
・機械的な損傷をできるだけ防ぐため、スリットはなるべく小さなものをつかう。
 そのためにも株は小さい方がよい(先月のFUTvsMFUを参考にして下さい)。
・拡大鏡をつかって既存の毛根をさけてスリットを入れる。
・パンチ穴での植えつけは、同じサイズのスリットよりはるかにそのリスクが大きいのでつかわない。
・局所麻酔はなるべく薄い密度にするとか、より少量にするなど麻酔法に工夫をする。

植えつけ密度を下げるとあたり前ですがまばらに生えて結果的には満足度が低くなるので、やはりデンスパッキングを目指すべきだろうと思います。
欧米では植えつけ範囲をあらかじめ剃ってしまって“ショックロスの有無にかかわらず移植毛で濃くするのだ!”という割り切った植毛医も大勢います。
移植毛で十分濃くできれば結果的にショックロスは関係なくなるからです。

“ショックロスは一時的現象で心配ない”といわれたが本当か?という問い合わせもありましたが“ショックロスで抜けた多くの移植毛は再び発毛する”というべきです。
男性型脱毛症は進行性であり、薄くなる範囲のヘアがだんだん細くなっていきます。
最終段階の細いヘアではショックロスのために永久的な脱毛をおこします。
そうでないヘアも発毛して次のサイクルに入って抜ける前のヘアより細くなればすべて生えたとしても結果的には薄くなってしまいます。

いつになったら植毛しても良いのか?完全に禿げてしまってからにした方がいいのか?という御質問も受けます。
あまり薄くない段階での植毛は慎重にということは確かですが、既存のヘアが残っているのでショックロスが心配で植毛しないというのも極端です。
どこまで男性型脱毛症が進むか予測できないからです。
私達が植毛を決める時の目安は「植毛をすると術前より濃くできるか?」という点です。
もし植毛をする方針を立てたらなるべく濃くするようにがんばってショックロスが心配だからといってまばらな植えつけはすべきではないと思います。