2022/12/06
第13回コラム ドナー部全体が薄くなってしまった
FUEでドナー部が薄くなることも
知り合いの海外の植毛医から、FUTとFUEの症例の比較写真が送られてきました。1回のFUTで後頭部から4000株(8000本)のドナーを採ったものと、2回のFUEでほとんど同じ株数を採った患者さんの画像です。FUTの傷跡はさほど目立っていませんが、FUEで採ったほうは、あきらかにドナー部が全体的に薄くなっているのが見て取れます。(画像1、2)
安全なドナー部とは?
たとえば、舛添さん(前都知事)の後頭部の毛の残っているところをイメージしてください。使えるドナーの部分はかなり限られた範囲ですよね。FUTでは耳と耳を結んだラインより下の部分から6000株~7000株ぐらい採りますが、多くの株を採るFUEのケースは安全な範囲を逸脱して採っているわけです。
FUEそのものを否定するわけではありませんが、範囲を逸脱して多くの株数を採ることには少なからず疑問を感じています。まだ日本では、FUEはそれほどポピュラーではありませんが、これからもっと盛んに行われるようになり症例が増えてくるにつれ、この問題が表面化されるかもしれませんね。
ショックロスが起きてもまた生えてくる・・・?
ある有名な矯正歯科の先生のケース。
頭のテッペンが薄くなってきたので、某植毛クリニックに相談。本人は数百本ぐらい植えればなんとかなるだろうと思っていたら、「広い範囲で毛が細くなっているので、2000株ほどは植えた方がいいですよ」と言われたそうです。
そこでFUEで植毛したところ、頭頂部の広い範囲でショックロスが起きてしまったというのです。(※ショックロスとは植毛手術が原因で植えつけた範囲の既存のヘアが一時的、あるいは永久的に脱毛すること)
彼も医療関係者なので、医療にリスクが伴うことは十分承知。ただ、今回のことにはどうも納得できず、「先生に診てもらいたい」ということで当院にやってきたのです。
カツラを外した彼の頭を見てビックリ! 植えつけた頭頂部の他にドナー部も全体的に禿げてしまっていたのです。
「元に戻るのでしょうか?」と尋ねられましたが、これほどの症状を見たのは私も初めて。いろいろ調べてみたところ、欧米でも3000株ぐらい採って、ドナー部のショックロスが起きたという症例があることが分かりました。
ショックロスというのは大抵は時間が経てば発毛しますが、FUEの場合は戻ったとしてもびまん性のまばら状態になる可能性が高いのです。そういう意味でFUEのドナー部のショックロスはFUTよりはるかに深刻と言えます。
ただし、こういった問題は誰にでも起きることではありません。その人の体質的な要因もあるということをつけ加えておきます。
解決等は?
改善する方法として植毛を行うことは不可能です。スカルマイクロピグメンテーション(SMP)しかないのですが、SMPというのはヘアと頭皮のコントラストを目立たなくするメディカルタトゥーのことです。この人の場合は坊主頭にして行うことになりますが、かなり大変な作業です。
美容医療では、その人が何を希望して選択するかが一番大事なことですが、最終的にそれを判断するのは本人です。医師はその方法やリスクを患者さんに正確に伝えなければなりません。