2022/12/06

第1回コラム FUT vs MFU株とFU株のコンビネーション

FU株・MFU株とは?

長い間直径3~4ミリの大きな株によるいわゆるパンチ植毛が行われてきましたが90年代初めからより小さいマイクログラフト( 1株に1~2本のヘアが含まれる株 )とミニグラフト( 1株に3~6本のヘアが含まれる株 )をつかって植毛が行われるようになりました。
さらに90年代後半になって毛穴の単位であるフォリキュラーユニット( FU )ごとに株分けをするFU株の概念が発表されました。
以前のマイクロ・ミニ植毛はドナーの頭皮を面としてとらえそれをさいの目に株分けしていましたが( cut-to-size )、現在はすべての株はFUを基準に株分けされています。
したがって旧態依然のクリニックはともかく最近の植毛では以下の株がつかわれています。

FU株…1つの株に1つのFUが含まれる株
MFU株…1つの株に2つ以上のFUが含まれる株。含まれるFUが2つならダブルフォリキュラー株、3つならトリプルフォリキュラー株といいます。

その他の特殊な株としては以下のようなものがあります。
マイクロ株…従来のマイクログラフトと同じですがFU株をより小さくしたもの、たとえば2本毛のFUをさらに1本ずつにばらしたものなどをこう呼びます。
フォリキュラーファミリー株…2つのFUがくっついてあたかも1つのFU株にみえる状態の株です。
フォリキュラーペアリング… たとえば1本毛のFU株を2コ1つのスリットに入れて2本毛にするなどあらかじめFU株にした2つの株を1つのスリットに植えつける技術。

FUTとは

・FU株のみをつかう
・ダブルブレードやマルチブレードナイフを使わない
・顕微鏡下で株分けする植毛法と定義されます。

最近は一部の植毛医によってインターネット上でMFU株の方がミニグラフトより耳ざわりのよい言葉としてつかわれているのが問題になっています。
従来からの大きい株であるMFU株をつかうにもかかわらずその方法を “進化したFUT” とか “Partial FUT” という表現をするクリニックなども存在します。
そのためFUTを行っている多くの植毛医はMFU株という言い方ではなく以前のミニグラフトという名前にもどした方が良いと主張しています。

FU株とMFU株のメリット・デメリット

  • FU株のメリット

生えている状態と同じなので”自然さ”の点でベスト

  • FU株のデメリット

・株が小さい分株分けも細かくなり結果的に手術時間が長くなる
・株数が多いので株分けスタッフが多く必要となる
・株が小さい分乾燥にも弱くよりデリケートな扱いが必要となる
・顕微鏡など設備投資が必要

  • MFU株のメリット

・株が大きい分同じ移植本数では手術時間が短くてすむ
・株分けスタッフが少なくてすむ
・株が大きい分丈夫でFU株ほどデリケートな扱いがいらない
・FU間の休止期のヘアが温存されるかもしれない→これは後にのべます

  • MFU株のデメリット

・FU株と比べ自然さでおとり植毛したことがばれやすい
・株が大きいのでそれを入れるスリットも大きくなりショック現象や頭皮の瘢痕化のリスクが大きくなる

MFU株のデメリットは患者さんではなくクリニックにとってのデメリットでMFU株のメリットとは患者さんではなくクリニックにとってのメリットと言えると思います。
現在世界の標準術式はFUTですが現在でもFU株だけで行うべきか?MFU株とFU株のコンビネーションがよいのか?については完全に決着がついていないのは事実です。

”自然さ”について

これはFU株に軍配があげられます。
植毛は”自然さ”と”濃さ”の2つの目標があり植毛の歴史はこの追及の歴史です。
その意味でFUTは究極の方法ですし、すべての植毛医はこの点への異論はありません。
MFUをつむじなど目立たない所に使うと良いという意見がありますが、よくみるとそれらはわかりますし、目立たないから良いというのはどうでしょうか?
日本人のヘアが黒髪で太いため小さなMFU株でもその不自然さは白人より強調される点は重要なポイントです。
どんなに他の点に優れていても自然さがなければ意味がないというのが私の結論です。

”濃さ”について

MFU株で植えつけた株は一本線状にアゼのように見えることがあります。
またその場合ひどいショック現象や頭皮が瘢痕のためにもりあがるといったことがおこりえます。

ショック現象がインターネット上でよくうんぬんされている某クリニックはMFU株をつかっていることがその大きな原因だと考えています。
また「某クリニックではMFU株がFU株とそうそう大きさが変わらないのでMFU株のダメージは以前ほど大きくない?のは本当か」という御質問も受けまし たが、各FUの間の距離は変えられないのでそれは不可能ですしMFUとFUのサイズが同じだということは完全にナンセンスな話です。
そういいながらあとで述べる休止期もなくせるなど説明の矛盾が目につきます。

”FU株の発毛率”についてHさんから
某クリニックの記事の真偽についての質問

『…近年広く行われている毛包単位ごとの植毛(FUT法)では、すべての株を1~2本毛の毛包単位(follicular unit)に分ける際に移植株の毛根組織のダメージが起きやすく、移植毛の発毛率(定着率)が70~90%と低くなるという内容の発表がありました。
これは以前からいろんな学会で多くの植毛専門医から指摘されてきたことです。
また、double follicular株やtriple follicular株を多用すると、発毛率が90~100%以上と良くなることは、以前から多くの学会発表で指摘されています。
この点については、これまでに国際毛髪外科学会(ISHRS)でも同様の内容で多くの発表がおこなわれています。
植毛界の世界的権威であるW. Unger博士やR. Shapiro博士は、FUT法にダブルフォリキュラー株やトリプルフォリキュラー株を併用したほうが、密度やボリュームを出すのに効果的だと以前から国際毛髪外科学会で何度も発表しています。
今回もこの説を裏付ける意見でした。』

小さな株はたしかにきゃしゃなので扱いには注意が必要ですが、小さい株自体の理由で発毛率が下がるということはありません。
というよりほとんどの発毛率の実験はFU株をつかってのものです。
「乾燥した場所に株を放置するとMFU株よりFU株の方が早く死んでしまう」のは事実ですが注意深く取りあつかわれた場合のFU株の定着率はMFU株と変わりません。
“MFU株は扱いが雑でも定着率が落ちない”ことと”大きい株の方が良い”というのは意識的なすりかえの論理です。

ちなみに書かれているUnger&Shapiroの両先生方は、とても有名な植毛医で前者はパンチ式植毛の時代からのカリスマ植毛医でたしかにMFU株の支持者です。
もう一人の医師は現在実際にはほとんどFUTを行っています。
(彼らが編集した世界的な植毛のバイブルといわれている医学書”Hair transplant 4版”の”アジア人の植毛”の章を私が担当したことは大きな誇りです。)

私のみる所アジア人の太い黒髪ではFU株が一番良いというのはほとんど常識になっていますし欧米のあらゆるサイトを調べてみるとFU株を支持している医師が多数派のはずです。
MFUの併用の方が良いという意見は欧米でも少数派です。

比較的小さい植毛チームでMFUを行っている個人の医師ももちろんいるのですがMFUを一番多くつかっているのはチェーン展開しているクリニックです。
というよりほとんどのチェーンクリニックはMFUを主につかっています。
経験のまちまちの医師や大きなチームをたばねていくためにより株のあつかいがデリケートなFUTの導入は不可能だからかもしれません。
あとでのべるRassman博士もFUTに切り替えてから自分のチェーンクリニックをたった2軒に整理したのですがその理由を聞いた時に「FUTは眼がとどかないと結果が良くないから」といっておりました。

視認できない休止毛について

MFU株の支持者はいつもこの点をいうのですが、彼らのほとんどは皮膚科の知識が不十分です。
FUTの父といわれるLimmer博士は「休止期のヘアが見えないのは神話であり、それらは拡大鏡や顕微鏡を使った株分けでは確認できるし、明るい視野のもとでは肉眼でも確認できる」といっております。
2本毛のうちの1本が休止期で1本毛だと思い植えつけたら2本生えてきたなどの事例はしょっちゅうありますが1本毛が休止期で不注意でそれを見のがすということ以外ほとんどの休止期のヘアはFUTで喪失することはありません。

要するに日本のMFU擁護の主張の多くは結論がはじめにありきです。
また白人のヘアと私達日本人のヘアの差を無視しています。
欧米のMFU論者は「一株いくらの手術費設定では株数が少なくてもすむので安価にでき、FUTと比べても仕上がりも遜色がない」というニュアンスですが日 本の場合は「MFUの方が結果がよい」と言い切っているのは問題です。また”MFU株をつかって株数を少なくしても患者は費用面のメリットを享受できない という料金システム”では受ける方々は全く損なわけです。
MFU株を擁護する医師達も自分自身の頭髪治療にはFUTを選択するのは確実ですし、自分の薄毛に行いたい方法を患者様にも行うべきだと考えます。

最後に私の友人でFUTの提唱者の一人Rassman博士が5年前私に送ってきたコメントを紹介いたします。

“The reason that many people use MFUs is that they can not or will not put the effort in learning or practicing FUT.
There is a great movement to show equality, which is clearly not the case.
At the ISHRS Showing of Patients when patients are shown off, the MFUs are clearly inferior, yet like the “Emperor’s New Clothes” tale, the MFUs proponents want to believe that it is something that it is not.

I have a tendency to ignore these claims because it is not worth the effort.
William Shakespeare said:
“A rose by any other name would smell as sweet”, but the MUGs and MFGs fellows would modify this famous quote by declaring that a synthetic rose with perfumed on it is exactly the same because it may “from a distance” look like a rose. “

〈以下、訳〉
多くの植毛医達がMFUをつかう理由は、彼らがFUTを学ばなかったり実践する努力ができなかったかしようとしなかったためです。
明らかに結果が違うのに同じだといわんとする動きがあるのは承知しています。
国際毛髪外科学会で実際の患者がデモされた時にそれをみてみればMFUの結果は明らかに劣っています。
MFUを支持する植毛医がMFUがFUより劣っていないと信じたいのは「裸の王様」のおとぎ話のようです(周りの人々は服がなくて笑っているのに本人だけが立派な服だと信じているのと同じです)。

私はMFU株が優れているという彼らのたわごとを無視しています。
それらを議論する努力の価値もないからです。
シェイクスピアいわく、「バラはたとえ他の名前をつけられても甘い香りをはなつ」しかしMFUが良いとする医師達はこの有名な言葉を勝手にかえて「造花のバラも同じように香り(遠くからみている限り)本物のバラと見分けがつかない」といっているようなものです。

<< 2008年09月29日 追記 >>

9月3~7日にカナダのモントリオールで国際毛髪外科学会総会が開かれ初日にFUTとMFU株+FU株のどちらが良いか?のホットなディベートが行われました。
FUT側の植毛医達は私と同じ主張でしたが、MFU株+FU株側についたStraub博士がMFU株を使う場合下の注意点が必要だと主張しておりました。

・いつでもMFU株よりFU株を多く使うべき
・いつでもMFU株のまわりにFU株を植えるべき
・黒髪では1回目にMFU株を使うべきではない
・黒髪では2回目の手術でも注意が必要
・MFU株のサイズに応じてスリットのサイズを決め、決して大きすぎたり小さすぎたりしないこと
・白髪やもともとの金髪の場合はMFU株を使ってもOKなこと
・ヘアライン付近にはMFU株を使わないこと

そうだとすれば私達日本人はMFU株を使うべきでないor2回目にはじめてケースバイケースで使ってもよいということになります。
ただ実際にFUTを行える体制なのにわざわざ2回目だけMFU株を行うクリニックはありませし(仮にそのような主張をするクリニックがあったらそこは大ボラふきです)、事実上彼の主張はアジア人ではFUTの方が良いと主張していることと同じです。

MFU株をつかっていると某クリニックのホームページに書かれている2人のカリスマ植毛医のうちW.Unger博士が挙手して、「4年前から99%の症例はFUTにしている。FUTでも株の生着率が非常に良く自然である」由の発言がありました。
Shapiro博士もそうなのは前に述べた通りです。
最後に司会者Rassman博士が出席者450名の植毛医に「この中でMFU株とFU株に賛成する医師は挙手して下さい」と質問したところ数名のみが挙手、残りの大部分はFUTを支持ということでした。
このディベートはFUTの優位性をはっきり証明しており、それが今回のコラムの結論だといっても良いでしょう。